冷戦後の世界において、秩序は流動化し、危機が頻発している。今や東アジアを含む世界は、一方で伝統的な国家主体をめぐる安全保障上の脅威をかかえつつ、他方でテロから地球環境に至るまでの非伝統的な安全保障上の挑戦にさらされている。こうした事態をうけて、わが国も遅ればせながら、さまざまな危険から国と国民を守るための多様な措置を求めるに至った。冷戦後における日本の軍事費は増えておらず、軍事組織の定員は縮小しているが、その機能と任務は拡大している。
90年代の日本は、第一に、不審船など主権侵犯への対応措置を明確化し、有事法制をはじめ、制度整備を進めるなど、自助努力を強化している。第二に、日米同盟の強化拡充を進めている。第三に、国連PKOをはじめ、国際平和協力活動へ参画するに至った。とりわけ21世紀初頭の9.11テロ以降のわが国は、インド洋、イラクへ自衛隊を派遣し、ミサイル防衛に加わり、防衛省への移行とともに国際平和協力活動を自衛隊の本来任務とするに至った。
このように重層的な安全保障上の挑戦をうけ、多機能弾力的にして実効的な国と国民を守る対処を要する21世紀を迎えて、われわれは日本防衛学会の設立を決意するものである。その主たる目的は、学術研究と実務の統合であり、知性に導かれた実行力の達成である。すなわち、本学会は防衛大学校内に育くまれた防衛学研究会を母胎に、広く安全保障と国際関係に関心を持つ学者・研究者と、防衛の実務に携わる自衛官や専門家 の参加を求め、研究と実務を両輪とし、両者の相互補完的関係の確立を求めるものである。なぜなら、今日の高度化し複雑化する国際社会にあって、高度な知的認識なしに国と国民をさまざまな脅威から守ることは不可能である。学術的研究なくして防衛の実務は世界の現実に届かず、防衛の実務を伴わない学術研究は実 効的安全保障をもたらすことができない。
同時に歴史の教訓を見失ってはならない。戦前の日本において軍人のみが国防の担い手であり、認識と決定は彼らに委ねられていた。社会と国民は総動員されるべき対象であり、軍事に容喙することは許されなかった。社会一般が軍事への知識と関心を深めるシビリアン・アウェアネスなくしてシビリアン・コントロール はありえない。とりわけ高度化する軍事技術と軍事戦略の実相への認識を欠いた学術的議論は空虚である。
戦後平和主義の50年を経て、再び安全のための実効的対応が軍事組織に求められるに至った今日、広く学者・識者が防衛と安全保障へ参画することは、健全な民主主義社会の発展のため不可欠である。学術と実務、知性と現場の補完的連携において日本防衛学の確立を求める本学会に、多くの研究者と実務者の参加を求めたい。
2007年7月3日