研究大会成果報告

第1回 平成19年度研究大会

投稿日時: 2020/08/12 Site Master

 日本防衛学会第1回研究大会が、平成19年11月22日(木)から23日(金・祝)にかけ、防衛大学校社会科学館大教場において開催されました。参加者は会員の他に、一般の参加者も加え、延べ400余名に達しました。
  大会の第一日目は、本村久郎研究大会実行委員長の開会宣言のあと、永澤勲雄事務局長による「学会発足の経緯並びに会則第2条の修正について」の報告、続いて渡邉昭夫会長の「日本防衛学会第1回研究大会開催に当たって」の挨拶があり、二つの部会報告と陸上自衛隊研究本部長の山口昇陸将による特別講演が行なわれました。
  第一日目の研究報告終了後、会場を防衛大学校の学生会館に移して懇親会を挙行。
  大会の第二日目は、午前の部会3「吉田茂と防衛大学校創設」に因み、参加希望者による特別企画:防大資料館見学が午前9時から9時45分まで、行われました。部会3の終了後、昼食時に第1回の役員会を実施し、引き続き、京都大学大学院教授による特別講演が行われました。その後最終部会の研究報告が行われ、五百旗頭真防衛大学校長(本会名誉会長)の次のような講評を兼ねた開催校挨拶があり、本村実行委員長の閉会宣言を以て、平成19年度研究大会は午後4時50分に終了しました。
 
 「この二日間を通じて非常に内容の濃い報告と討論が多かったと言えることを嬉しく思います。戦前の学者は、安全保障とか軍事・国防という議論を一般社会ですることは殆どありませんでした。学者は観念論を果てしなく楽しみ、軍事に携わる人は術科の方にどんどん入っていって国家戦略を国際環境の中で大きく再定義しながら方向付けるということについての議論も素養も非常に乏しいものでした。結果、破綻を招きました。
 今、わが国は冷戦後の国際安全保障に関しあらゆるレベルで活動を再開するという事態になってきた時、再び学者は学術の中に耽溺し、実務は実務にのみ没頭するという失敗は繰り返してはなりません。この度の研究大会に参加して、学術と実務の融合による今後の実効的な安全保障研究に関する成果に手応えを強く感じた次第です。」
 
研究大会のプログラムならびに部会報告等は以下の通りです。
 
プログラム
 
第1日 11月22日(木) 〔13:00~18:40〕
 
研究報告
 部会1 「自由論題」
 座 長防衛大学校教授 川村 康之
 ①「なぜOEFとISAFの指揮系統は一本化されないのか?-連合作戦の枠組みが軍事作戦に及ぼす影響の一考察-」
  防衛大学校准教授・3等陸佐 小川 健一
 ②「国家の同盟行動について-第一次世界大戦期を中心に-」
  防衛大学校准教授・3等陸佐 山口 昭和
 ③「大災害時における自衛隊の支援活動-新潟県中越地震の経験から-」
  陸上自衛隊小平学校法務教官室・2等陸佐 佐藤 克枝
 コメンテイター    防衛大学校教授 武田 康裕
            軍事史学会理事 影山 好一郎
 
部会2 「北朝鮮、イランの核危機と米国の政策」
 座 長 慶応義塾大学教授小此木政夫
 ①「米国の核不拡散政策―イランと北朝鮮-」
  静岡県立大学教授 梅本 哲也
 ②「北朝鮮の核開発問題と6者協議」
  杏林大学教授 倉田 秀也
 コメンテイター 帝京大学教授 志方 俊之
         防衛大学校教授 孫崎 享
 
特別講演 〔17:40~18:40〕
 「米軍の『変革』と『再編』―我が国にとっての意義と課題―」
 陸上自衛隊研究本部長・陸将 山口 昇
 
【懇親会】〔18:55~20:15〕 
 
第2日 11月23日(金)祝日 〔9:00~16:50〕
 ◎特別企画:防大資料館見学 展示:防衛大学校55年の歩みと学生生活
 
研究報告
 部会3 「吉田茂と防衛大学校創設」
 座 長東京大学名誉教授 渡邉昭夫
 ①「吉田茂と再軍備―その時何を考えたか―」
  防衛大学校准教授 永澤 勲雄
 ②「初代学校長槇智雄記念室の開設にあたって」
  防衛大学校教授・槇記念室設置に関する委員〔長〕 田中 宏巳
 ③「槇初代学校長の教育理念とその淵源-アーネスト・バーカーとの関係に着目して-」
  防衛大学校講師・槇記念室設置に関する委員 轟 孝夫
 コメンテイター 筑波大学教授・副学長 波多野澄雄
         武蔵野学院大学教授 前川 清
 
【昼 食】〔12:00~13:10〕
 
特別講演〔13:10~14:10〕
 「吉田茂の安全保障観について」京都大学大学院教授 中西 寛
 
研究報告
 部会4 「多様化する国際平和協力活動と自衛隊」
 座 長 拓殖大学大学院教授 森本 敏
 ①「国際平和協力活動の即応性について」
  防衛大学校教授・1等陸佐 太田 清彦
 ②「アフガンでのDDR(武装解除、動員解除、社会復帰)活動の経験から」
  陸上自衛隊幹部学校教官・1等陸佐 安藤 隆太
 ③「国連平和維持活動への要員供給の政治力学」
  防衛大学校講師 久保田 徳仁
 コメンテイター     尚美学園大学大学院客員教授 高井 晋
             青山学院大学准教授 青井 千由紀
 
開催校挨拶  防衛大学校長 五百旗頭 真(名誉会長)
 
部会座長報告
 部会1「自由論題」
  第1報告者の小川健一会員は、「なぜOEFとISAFの指揮系統は一本化されないのか?―連合作戦の枠組みが軍事作戦に及ぼす影響の一考察―」として、アフガンにおける有志連合(コアリション)による作戦に関して報告した。この研究は、米国主導の有志連合の枠組みによるOEFと、NATOという同盟の枠組みによるISAFのテロリストを捕捉・撃滅するための攻勢作戦を比較分析することにより、連合作戦の枠組みの違いが軍事作戦にどのような影響を及ぼしているのかを考察し、OEFとISAFの指揮系統が「一本化(merge)」ではなく「共働(synergy)」された関係である理由を主に軍事的な側面から明らかにすることを目的としたものである。
  この研究では、有志連合という新しい枠組と、同盟という伝統的な枠組みによる連合作戦におけるそれぞれの特質がよく捉えられていた。コメンテイターの武田康裕防衛大学校教授は、指揮系統の一本化が望ましいという既成概念に疑問を呈するとともに、この研究のさらなる発展を期待する旨のコメントを述べた。
  第2報告者の山口昭和会員は、「国家の同盟行動について―第一次世界大戦期を中心に―」として、第一次世界大戦における主要国の同盟行動を素材に、国家は「何を求め」、「どう行動した?」について、一定のパターンの抽出を試みた。
  コメンテイターの影山好一郎元防衛大学校教授は、第一次世界大戦期の各国の同盟行動については多くの研究がなされているが、「何を求めたか?」と「どう行動した?」という枠組みによる分析はユニークであり、結論が明快であるとコメントを述べた。
  第3報告者の佐藤克枝会員は、「大災害時における自衛隊の支援活動―新潟県中越地震の経験から―」として、新潟県中越地震に法務担当者(旅団法務官)として派遣され、約1ヶ月間新潟県庁の指揮所において勤務した経験から、支援活動について法務の見地からする考察を報告した。
  この報告に対して、2名のコメンテイターからは、実体験に基づいた研究の価値と有効性に関するコメントが述べられた。
  3名の報告者は、いずれも陸上自衛官(3佐と2佐)であり、小川会員と山口会員は防衛大学校教官として、佐藤会員は小平学校で法務教官として勤務している。これらの研究報告は、まさに研究と実務の融合という本研究大会の目標に合致するものであった。また、この研究報告を基礎として、さらに大きな研究成果に結びつくことが大いに期待された。
 (座長 防衛大学校教授 川村康之)
 
部会2「北朝鮮、イランの核危機と米国の政策」
  「北朝鮮、イランの核危機と米国の政策」を論ずる部会2では、梅本哲也教授(静岡県立大学)と倉田秀也教授(杏林大学)が、それぞれ「米国の核不拡散政策―イランと北朝鮮―」、「北朝鮮の核開発と6者協議」と題して発表した。いずれも問題点を的確にえぐり出す高い水準の発表であり、聴衆に強い印象を与えた。コメンテイターの志方俊之教授および孫崎享教授からも適切な指摘がなされ、発表者との間に濃密な討論が展開された。あらゆる意味で成功した部会であり、司会としても喜ばしかった。
  梅本教授の発表によれば、米国による核不拡散政策の適用は必ずしも一律ではなく、個別的事情によるところが大きい。その場合に重要なのは、①当該国の政治体制が米国の体制に近似しているか否か、②戦略的利害が米国の利害と一致しているか否かであり、対応手段としては、③実効性を期待できるか否かが重要である。
  そのような観点からイランと北朝鮮を比較して、梅本教授は両国への核拡散問題が2002年後半以後に深刻化し、多国間外交による解決が企図されている、両国への経済制裁には、ロシアと中国が消極的であること、軍事的解決は地域情勢に重大な影響を及ぼすことなどの類似性が存在することを指摘するとともに、開発状況、NPTとの関係、開発の動機、関連する脅威に相当の差異性があると主張した。したがって、核開発の動機の観点からは、「正」の梃子(褒賞)はイランよりも北朝鮮に作用しやすいというのである。他方、社会的な開放度、エネルギー資源、国際経済との関連では、イランには「正」と「負」の梃子の戦術的な併用が有効であることになる。
  他方、倉田教授は北朝鮮核問題をめぐる6者協議を①地域的集団安全保障に関する論議、②多国間平和体制に向けての触媒としての役割、③埋没していた当事者である韓国の浮上などの観点から分析し、さらに核実験後の国連安保理事会決議が「集団的圧力」機能を喪失し、6者協議の比重を高めたこと、その「初期段階合意」(2007年2月13日)がCVIDの後退を意味すること、開設された五つの作業部会が地域的取り決めの達成を優先していることなどを指摘し、北朝鮮核実験後の朝鮮半島の平和体制樹立問題を論じた。
  倉田教授はまた、北朝鮮人民軍の板門店代表部の談話やAPECでの米韓首脳会談の内容を分析し、朝鮮戦争終結宣言から平和体制の樹立に至る構想の現状について分析し、それを2007年南北首脳会談(盧武鉉・金正日)との関連から論じた。このような構想がどれだけのスピードで進展するかはともかく、その議論の展開や論理に注目して、国連軍司令部解体と日米安保体制への波及に言及したことが注目される。
 (座長 慶応義塾大学教授 小此木政夫)
 
部会3 「吉田茂と防衛大学校創設」
  第一の報告者永澤勲雄会員(防衛大学校国防論教育室 准教授)は「吉田茂と再軍備 ―その時何を考えたか―」と題して、自衛隊の前身である保安隊、および、防衛大学校の前身である保安大学校の創設前後の経緯を詳細な資料を紹介しつつ、吉田茂首相の思想を解明した。特に、昭和28年(1953)10月17日の保安大学校における首相訓示を引用し、吉田がこの学校の将来に大きな期待をかけ、その教育内容、組織に多大の関心を寄せていたという事実を紹介し、「諸君は将来のため日本の国力の基礎となり土台となって日本の発達、盛運、繁盛の礎となる重要な任務を負っており国防の将来に重大な関係を持っているのである」と学生を激励したことを明らかにした。
  それを承けた第二の報告者田中宏巳(防衛大学校人間文化学科教授・槇記念室設置に関する委員〔長〕)は初代学校長槇智雄記念室の開設の経緯について説明し、また、第3の報告者轟孝夫(防衛大学校人間文化学科講師)は「槇初代学校長の教育理念とその淵源」と題して、槇がオックスフォードに留学中に師事した著名な政治学者サー・アーネスト・バーカーの学説を紹介しながら、槙校長が、バーカーの議論を受けて「法と道義」に従った「正しいこと」を実行することにおいてのみ「個性の発展」があり、またそこにこそ真の自由があると主張し、「民主主義は法と道義による支配である」という民主主義観をつねに考察の基礎に置いて、防衛任務の尊さを学生に説き続けたこと、そして防大での学業、学生舎生活、校友会活動(スポーツ)をそのような民主主義の精神を育成する場として位置づけ、ひいてはそれらが人格の最大限の発展をもたらしてくれるものと信じてやまなかったと述べた。以上3つの報告に対して波多野澄雄(筑波大学教授・副学長)および前川 清(武蔵野学院大学国際コミュニケーション学部)が防衛大学校創設の時期に影響のあった吉田首相と槙初代校長という2人の人物の事蹟を再検討して、防大草創期の精神を振り返った本部会は、本学会発足に当って誠に時宜を得た企画であるという趣旨の簡潔なコメントをし、フロアからも活発な発言があった。
 (座長 東京大学名誉教授 渡邉昭夫)
  ※なお、プログラムには座長波多野澄雄、コメンテイターの渡邉昭夫となっていたが、時間の関係で、急遽、二人の役割に交代があった。
 
部会4 「多様化する国際平和協力活動と自衛隊」
  本部会は、国際平和協力活動が冷戦後において国際の平和と安全にとり、重要な役割を果たしその活動や機能が拡大する中で、湾岸戦争後に初めてカンボジアのPKO活動に参加した自衛隊が国際平和協力活動の本来任務化されるという状況変化のもとで、今後、いかなる役割や機能を果たすべきかを討論したものである。
  まずは、太田1陸佐(防衛大教授)より、「国際平和協力活動の即応性について」、安藤1陸佐(陸自幹部学校)より、「アフガンでのDDR活動の経験から」、久保田会員(防衛大講師)より「国連平和維持活動への要員供給の政治力学」の発表が行なわれ、コメントは高井(尚美学園大客員教授)、青井(青山学院大准教授)の両氏によって行われた。
  本部会での発表者及びコメンテイターとも良く選択されており、発表の議題も極めて適切な組み合わせであったと考えられる。太田1佐の発表はカンボジアPKOにはじまる自衛隊の海外展開がいかなるプロセス・手順をふんで実施され、その即応性を向上するための自衛隊の組織・運用上の問題点について指摘するものであった。安藤1佐の発表は、アフガンにおけるDDR活動をその実績と体験を通じて成果や問題点を評価するものであり、説得力ある内容であった。又、久保田講師の発表はPKO活動に要員を派遣する場合の主要ファクターを統計モデルを使用して評価するという意欲的な内容であった。これらの発表に対する高井、青井両先生のコメントも極めて質の高い適切な内容であった。
  その後、若干の討論を行なったが、特に、(1)自衛隊の国際平和協力活動には憲法上、各種の制約要因があるところ、自衛隊の部隊活動上、それらの中で最も改善されるべき点は何か、(2)国際平和協力活動の本来任務化によって自衛隊の任務・活動にはいかなる変化が生じてきたか、(3)海外における活動には犠牲者という問題がつきものであるが、犠牲者に対する敏感性を決定しうる要因とは何か、等について議論が集中した。
 討論の内容は率直、かつ、真摯なものであり、自衛隊のもつ問題点を浮き彫りにするものであったが、特に、憲法上の制約要因については今後、改善されるべき点が多いことが指摘された。
  全体として自衛隊の海外展開が質・量とも拡大する中で、これらの職務に従事する自衛隊は、各種の問題に直面しつつも、体験を通じて習得するところが多く、これは政策・理論と現実・応用のinteractionの領域を占める問題でもある。その点で、この種の議論を通じて具体的な政策提言を行なっていくことも防衛学会開設の意味合いとして認識されたことは注目される。
 (座長 拓殖大学大学院教授 森本敏)
 
【懇親会】〔22日(木)〕
  一日目の特別講演終了後、会場を学生会館4階大ホールに移し、午後6時55分から懇親会が開催され、名誉会長、会長の挨拶に続き、冨澤副会長の発声で乾杯、懇談に移りました。宴半ば、陸自中部方面総監中村信悟会員からの祝電の披露、また衆議院議員玉澤徳一郎会員の祝辞もあり、70余名の会員は互いに親睦を深め楽しい一時を過ごしました。午後8時15分に馬場副会長の閉会の挨拶によって散会しました。