研究大会成果報告

第30回 令和6年度 研究大会の報告

投稿日時: 09/22 jsds

日本防衛学会(JSDS)令和6年度 研究大会の報告

 

【6月22日(土)】

部会1A自由論題(6月22日08:50 ~ 11:00 司会:宮本悟)

自由論題は3つの報告が行われた。矢吹真二郎会員は、「民主化後のインドネシア国軍改革」について報告し、同国軍の政軍関係のあり方などを巡って活発な意見交換が行われた。村田真理会員は、「国際法における自衛権行使の要件―国際司法裁判所ニカラグア事件本案判決の構造―」について報告し、討論者の真山全会員が国際法における同事件判決の位置づけを指摘した。岩村研太郎会員は、「1936年『国内防衛協定ニ関スル陸海軍任務分担協定』の成立経緯」と題して、軍事史の観点から旧陸軍と旧海軍の本土防空体制を巡る権限争いを活写し、齋藤達志会員が討論に立った。

 

五百籏頭眞先生追悼行事(12:25 ~ 13:15 司会:武田康裕)

防衛大学校儀仗隊(1個分隊)がトランペットとドラムによる演奏とともに、ドリル演技をささげた。國分良成会長をはじめ、久保文明・防衛大学校長ら関係者が故人との思い出深い交流を披露し、その業績をたたえた。今回の行事には、故人の長男、五百籏頭薫・東京大学教授も駆けつけ、家族の眼から見た人物像を紹介した。

 

共通部会 (13:20 ~ 16:50 司会:國分良成)

「多発する地域戦争・紛争と安全保障上の課題」を共通テーマに、谷内正太郎(元国家安全保障局長)が「日本の外交と安全保障―安倍政権とその後―」と題して基調講演を行った。安倍政権の外交・安全保障政策を高く評価し、その後の政権における安倍路線の継承と深化を描写した。これを受けて、黒江哲郎(元防衛事務次官)が「国家安全保障戦略~残された課題~」と題して、人口減少下での人的基盤の確保、戦略的な防衛装備移転の推進、核を巡る危機的な状況への対応という3つの課題を列挙した。土本英樹(前防衛装備庁長官)は、「防衛産業の課題」と題して、その低い利益率などから危機的状況にあることを報告した。最後に、小木洋人(国際文化会館地経学研究所主任研究員)が「『火力投射の民主化』がもたらす戦略様相の変化:我が国への示唆」と題して、現在進行中のウクライナ戦争とガザ紛争からの教訓として、戦争の長期化や消耗戦化が進んでおり、防衛産業の強化が必要であることを訴えた。会場からは質問が相次ぎ、活発なやり取りが交わされた。

 

【6月23日(日)】

部会1B自由論題(09:40 ~ 10:30 司会:宮本悟)

前日の部会1Aに引き続き、川嶋隆志会員が「ハイブリッド脅威分析のコンセプト・モデルの台湾有事抑止への適用可能性とその課題」と題し、NATOの分析モデルを台湾有事に応用するという興味深い思考実験を提示、八塚正晃会員が討論に立った。

 

部会2(10:30~12:00 司会:田中宏明)

「防衛技術基盤の発展に向けた連携」について、先ず、大崎馨(防衛装備庁。討論者)から部会テーマ選定のため参考とした「防衛技術指針2023」の概要及び先端民生技術の活用と官民連携の問題認識等について説明が行われた。続いて、山本雅司(防衛大学校)、井筒俊司((株)アストロスケール)から「軍事意思決定に資する機能と技術発展に資する官民連携に向けて」、「宇宙安全保障と民間企業の取り組み」について報告があった。討論者の大崎からは、山本報告に対して技術側と運用側の有効な連携のための考慮事項、指揮幕僚活動に資するAIに対する機能要件について、また、井筒報告に対して宇宙利用の展望、既存企業及び官側との連携における問題意識と要望について質問があった。最後に、フロアーから質問が多数寄せられ、活発な議論が行われた。

 

部会3(12:50~14:50 司会:清岡克吉)

「望ましい安全保障環境の醸成に向けた防衛装備・技術協力上の課題」をテーマに、2名の報告者(森本正崇、伊藤弘太郎)から、日本の防衛装備・移転政策の現状と課題、韓国の防衛産業輸出拡大がインド太平洋地域に与えた効能、についてそれぞれ報告が行われた。討論者(西田一平太)から、森本報告に対して、政府安全保障の応力強化支援(OSA)と防衛装備品移転の連携について、伊藤報告に対して、韓国における望ましい戦略環境と装備品輸出との関連について、それぞれ質問があり、それに対して報告者からの応答があった。最後にフロアーも加わり活発な議論が行われた。

 

部会4(15:00~17:00 司会兼討論:岡田美保)

「ロシア・ウクライナ戦争の東アジア安全保障環境への影響-中露朝関係の変容とその含意―」 をテーマに、3名の報告者(熊倉潤、堀田幸裕、宮本悟)が、それぞれ、ウクライナ侵攻後の中露関係、中朝関係、露朝関係について報告を行った。討論者から、3つの二国間関係の集積としての三国間関係について、内在的な変化の要因は当面見当たらないとする点で共通する報告であったと思うが、外在的な変化要因、特に米国の経済制裁についてどう考えるかとの問題提起があった。中露関係に関しては、制裁の規模によっては変化の契機となりうる一方、中朝関係、露朝関係については、影響は微小なものにとどまるであろうとの回答があった。最後にフロアーも加わり活発な議論が行われた。